ケータイが鳴って。慌ててそれを引き寄せる。
　寝ていたわけではないけど、少しぼぅっとしていたせいで…思わず操作を間違えて。

　「きゃぁぁぁぁ！！！いまのはうそだからぁぁぁ！！」
　
　着信拒否にしてしまった。慌ててかけ直すと話中。

　「……っっ！！」

　心配と苛立ちが募って。何度もかけ直すが。おそらくお互いそうしているのかなかなか繋がらない。
　
　「連絡遅いよ…！バカ」

　だからつながった時の第一声がこれで。
　怪我してないよね、とか。明日も学校あるよとか。
　（顔が見たいよ、とか…！）
　言える言葉は、応援より少なかったけど。泣きかけてるのをごまかすために、なんだか早口で馬鹿みたいだったけど。

　「無事で良かったぁ…」

　とにかく、それだけ伝えたら。
　電話口の向こうで。ものすごく困ったみたいな声が聞こえた。
　
　
　
　＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
玲たんのメール呼び出し音とかは、ひめひめペッタンコとかだと信じｔ（

じゃなくて。かずにゃんは学校で応援してるのです。戦場とか、怖くて行けないタイプ。
でも灼滅者カップルの醍醐味って、守り守られることかなぁとも思いつつ。

　もちろん、試験勉強は一緒だったから。試験を教えた分、クリスマス付き合いなさいよとかがちょうどいい口実なのかもとか。
　てゆか、ご褒美でなにかご馳走するからとか言うべきなの！？
　そもそも誘っていいわけ？うわぁぁん、どうしてくれるのよーーー！！
　
　で、でも明後日にはもうイベント締切が来ちゃうわけで！
　あああああ、なんなの！葛藤する余裕すら与えてくれないの！？ばかーばかー！
　
　


　背後：でも、ちゃんとマフラーはあんだりしたんだよね？

　　だからいつも暴露すんなって言ってるでしょーーー！？

　手、つなぎたいな……。

　実際、そんなことなんて口に出したらきっと闇堕ちするし
　そうじゃなくても、手が触れ合っただけでもたぶん、私はなんか赤くなって。それをごまかすために殴っちゃうだろうけど

　でも、手とか。つなげたらいいな。

　つないで歩けるように、なれたらいいな。


　やばい、その感触を思っただけで。
　軽く、私が死にそうになった


　どこまで、好きな人ってずるいの。

　相手は、そんなことなんかちっとも思ってないのに

　試験勉強に抜かりはない。
　そもそも、毎日こつこつやるタイプであるし。
　でも、さすがに疲れる日はある。特に最近湿度と気温が上がってきて、すっかり体力を奪われるようになってきた。

　長い髪をみつあみにして、前髪をピンで上げ。中学の頃から愛用のジャージで机に向かう姿など見せられたものではないが。
　それでも試験勉強の時の定番の格好であったりはする。
　「…そろそろ、寝ようかな」
　はふ、吐息を吐き。問題集とノートを閉じる。几帳面なせいか、問題を解くノートも、まとめをしたノートも整然と数字や文字が並ぶ。
　けれど、そんな几帳面さは本人もやや疲れるものであったりして。

　…ふと、時間を計り問題を解いていたため出していたスマホをを手に取る。
　いくつかの操作をしたあと
　
　現れたないしょの写真画像に、ふわりと笑みほどけてから、あわてて前髪のピンを取る。
　おでこ全開は、写真相手にしたってあまり見せたい姿ではない。
　「…いったぁ…！」
　あわててひっぱったら数本が抜けた。なみだめもにゅ。

　写真を消して、充電のコードを刺す。着替えてから、唯一の光源だったデスクランプを消した。

　明日のお弁当は何にしようかな。
　
　和にゃんは、今日もがんばってます


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 暴露すんなーーーー！！！

背後：和にゃんがんばってる！輝いてるよ！いろんな人がによによ応援してるよ！

　
　「用は、お兄ちゃんに作ると思えばいいのよね」

　このセリフだけ聞くと、どことなくブラコン臭が漂うのだが。別にそういうわけではない。
　和奈の兄は年子でひとつ上。めでたく浪人が決まって、現在予備校生。
　けれど年上だからといって、現在の高３男子とさほど嗜好や摂取量に変わりがあろうとは思えない。そういう意味では、想像しやすいモデルではある。
　というわけで、ばたばたと戸棚を探し。とりあえず兄が使っていただろう弁当箱を出す。
　そして、兄という家族に作る的さりげなさを演出してみる。そうすると

　「わぁ、ひどい」

　白米と海苔だけになった。
　リアル妹なんてそんなものである。兄は生きたサンドバックと思っているせいか、兄につくるとなると白米だけでいーじゃん、ふりかけ一個入れてやんよぐらいの扱いの粗雑さである。
　もしかしたらどこかに、お兄ちゃんのために一生懸命つくったの。残さず食べないと許さないぞ☆的妹もいるのかもしれないが、とりあえず和奈はそれとは別次元の生き物らしい。

　「兄のことは置いておこう」

　ついでに白米だけの弁当も脇へ押しやる。これはあとで本当に兄にもたせればいい。ふりかけぐらいつけてやんよ。

　そんなわけで再び悩みだすわけだが。
　もういっそ、自分と同じにすればいいこととする。

　「自分と同じで、量をこの弁当箱にすればいいのよ」

　そう、あくまでついで。これはついで。
　自分のついでに持って行くもの。

　本当は違うのだが、そういう体裁を取り繕ってしまうところが、悪いところだったりする。
　相手が聡いのであれば、それでもかまわないのであろうが。相手はあのニブニブ星人であったりする。「ついでよついで」などといえば「そうか、ついでか。ですよね、わかってた」とか言う相手なのだ。

　「……のりでLOVEとか」

　かいた見ようかと思うが、もはやそれはギャグでしかない気もする。

　「……って！」

　時計は６時を回っている。
　あわてて弁当を詰め始めるのだった。


　　　　　＊　　　　　　＊　　　　　　＊


　「はい」
　「お、サンキュー。マジ助かる！」

　やっぱり相手は気がつかない。
　
　でもなんとなく、喜んでもらえるだけで嬉しいとか思ってしまう。
　いつもは隣に並ぶの、歩調を遅らせて、表情を隠す。

　「いいお嫁さんになるわー」

　でもそろそろ、蹴り飛ばしてやろうかとは思った。