さて、お弁当作りとなったのだが。

　現在朝５時。
　本来早起きして勉強することもある和奈には、さほど苦労する時間ではないが。何を作ろうか迷走し、生来の勉強家という側面が暴走した結果。
　料理本にクックパッド。その他もろもろ、ネットの海まで彷徨い出て、結局あまり寝ていない。

　
　「用は、お兄ちゃんに作ると思えばいいのよね」

　このセリフだけ聞くと、どことなくブラコン臭が漂うのだが。別にそういうわけではない。
　和奈の兄は年子でひとつ上。めでたく浪人が決まって、現在予備校生。
　けれど年上だからといって、現在の高３男子とさほど嗜好や摂取量に変わりがあろうとは思えない。そういう意味では、想像しやすいモデルではある。
　というわけで、ばたばたと戸棚を探し。とりあえず兄が使っていただろう弁当箱を出す。
　そして、兄という家族に作る的さりげなさを演出してみる。そうすると

　「わぁ、ひどい」

　白米と海苔だけになった。
　リアル妹なんてそんなものである。兄は生きたサンドバックと思っているせいか、兄につくるとなると白米だけでいーじゃん、ふりかけ一個入れてやんよぐらいの扱いの粗雑さである。
　もしかしたらどこかに、お兄ちゃんのために一生懸命つくったの。残さず食べないと許さないぞ☆的妹もいるのかもしれないが、とりあえず和奈はそれとは別次元の生き物らしい。

　「兄のことは置いておこう」

　ついでに白米だけの弁当も脇へ押しやる。これはあとで本当に兄にもたせればいい。ふりかけぐらいつけてやんよ。

　そんなわけで再び悩みだすわけだが。
　もういっそ、自分と同じにすればいいこととする。

　「自分と同じで、量をこの弁当箱にすればいいのよ」

　そう、あくまでついで。これはついで。
　自分のついでに持って行くもの。

　本当は違うのだが、そういう体裁を取り繕ってしまうところが、悪いところだったりする。
　相手が聡いのであれば、それでもかまわないのであろうが。相手はあのニブニブ星人であったりする。「ついでよついで」などといえば「そうか、ついでか。ですよね、わかってた」とか言う相手なのだ。

　「……のりでLOVEとか」

　かいた見ようかと思うが、もはやそれはギャグでしかない気もする。

　「……って！」

　時計は６時を回っている。
　あわてて弁当を詰め始めるのだった。


　　　　　＊　　　　　　＊　　　　　　＊


　「はい」
　「お、サンキュー。マジ助かる！」

　やっぱり相手は気がつかない。
　
　でもなんとなく、喜んでもらえるだけで嬉しいとか思ってしまう。
　いつもは隣に並ぶの、歩調を遅らせて、表情を隠す。

　「いいお嫁さんになるわー」

　でもそろそろ、蹴り飛ばしてやろうかとは思った。