手をつなぐ。
　指の先っちょ、ちょっとだけ捕まえて。
　
　寄り添うなんてできるはずないから、なんだか遠いけど。　でも繋がってる。

　（よかったぁ……！）

　それしか出ない。俯いて笑っちゃう。
　なによ、手をつなぐのが早いなんて。そんなの知らない。許してあげない。
　こんな、ちょっとだけなんだから。
　毎日じゃないと許さない。

　「とか思ったら、死ぬわよね」
　「殺す気か！？ヤンデレか！？」

　なんでそんな怯えてるのよ。
　とりあえず、キョドってるのに安心して。帰り道。

　………なんだか遠い、初めての手つなぎを。
　
　見知らぬ小学生に、突っ切られた。


　

　
　う、うわぁぁぁん。べ、べつにまいにちなんておもってないってば！！

　でも、なんだろ。実際一緒にいる時間は多くなった気がしないでもない。努力の結果として。
　かといって、何かが変わるかといえばまったく何も変わらないわけで。
　乙女心と秋の空、だけと変わらぬ気持ちにため息をつく。

　｢…ちょっと休憩に｣
　｢にげんなｖ｣

　いそいそ逃げ出そうとするのを、一言釘さして。ノートに突っ伏す黒髪に、手を伸ばしてナデナデとしてみる。
　
　（あ、つむじ）

　身長差の問題から、普段は絶対見れない頭のてっぺん。
　なんとなくかわいくて、シャーペンでつついたら嫌がられた

　お風呂上り。髪も乾かして。
　洗濯と乾燥の終わって畳まれた緑のジャージは、なんだかよそよそしい。普通の、どこにでもある服になってる。

　あとは、お礼のお菓子と一緒に。紙袋に入れて返すだけ。
　甘いもの、嫌いではなかったはずだし。クッキーぐらいは自信があるのよ。

　明日は振り替えで休み。
　でも試験が近いから、少しだけ勉強をするために机にむかう。
　
　部屋の灯りを消して、デスクライトだけが照らす中。ぼぅっと頬杖をして、今日は楽しかったなって考えた。
　思った以上に、灼滅者の世界は。楽しい世界だった。

　（ジャージ、かしてもらったし。フォークダンスも踊ったし）

　それは思い出すと、どうしたらいいかわからなくなる。
　何度だって、思い出したいけど。思い出すたび恥ずかしくて。
　見ているのとおなじだ。こっち見てって思うけど、いざまじまじと見られたら手が出てしまう。でも、心をくすぐられるような気持ち。
　ぽふっと、畳まれたジャージの上に頭を乗せた。

　「もぅ、にぶいんだから。ばかっ」

　でも、ほんのちょっと。そのにぶさに救われてるって思った。
　鋭かったら、逃げ場ないもの。

　
　びしょぬれになった。

　もう、集中砲火。ゼッケン切れても止まらないし！
　
　そんな感じでくたくたになって、見れば確かに体操服の下が透けている。

　「もー…」

　みょーん、と白い体操着が張り付かないように前面を前にひっぱる。
　くびれはあるが、谷間がない。
　そんな自分がちょっぴりせつない。

（やっぱりもうちょっと、あったほうがいいよねぇ）
　
　そんなのを悩みながら、クラスメイトたちに背中向けて。自分のジャージを取りに行くべくとぼとぼしていると。
　向こうで七瀬くんと何事か言い合っていた「彼」が来る。なんだかジャージを脱ぎながら。
　ぽかんとしてみていたら、そのままそれを差し出された。

　「……これ、上に着とけ」
　「…ありがと」

　思わず受け取ったら、そのままくるり背中を向けて戻ってく。

　（何よ、これ濡れてるじゃん）

　ジャージは水を含んでて重い。でも、あったかい。
　着てみれば。身長差２０センチ近いから。手は指先しか出ないし。裾なんか思いっきりお尻隠れるし。でも
　
　（何で、好きな人のものって…こんな特別なの？）

　濡れたジャージのくせに、ずるい。
　着てみて、その大きさに。残った体温に。自分のとは違う匂いに。
　そんなのひとつひとつにドキドキとかずるすぎる。なんだ、私がへんみたい。バカみたい。

　（どうしよう。すごくうれしい）　
　
　走り出す。
　耳まで顔が赤いと思ったから、次の競技が終わるまで。第七放送室の片隅で隠れてようと思った。
　今、誰かに顔を見られたら、舌かんで死ぬ。


　　　　　＊　　　　　＊　　　　　＊


　
　―――終了後。
　とりあえず、普通の顔ができる程度にまで回復したので。
　そのへんで競技を見ていた玲たんの首根っこを引っつかむ。

　「はーい、クラスに戻るよー」
　「ちょ…つぎ、次の組が…！」

　問答無用でずりずりひっぱってゆく。高校生男子を引きずれる腕力って、灼滅者は素敵よね。

　「ジャージは、洗って返すから」

　まだ着てる。さすがに腕まくりはしないとだけど。上下の色がちぐはぐでかっこ悪いけど。

　「べつに洗わなくても気にしねーけど」

　もはや引きずられなれた玲たんが答える。いいの、私がするのよ。
　ていうか、もうちょっと着てたいんだもん。…とか、絶対口にしない。恥ずかしい。

　「あと、フォークダンスも参加ね」
　「なんで決定なんだよ。フォークダンスって非リア充が行ったら女の子に嫌がられて、あぶれて男同士で組んで切なくなるヤツだろ？」
　「切なくならない！私が相手するし！」
　高校最後なんだから、思い出作り！と強引に決定した。
　なんだかんだといっても、拒絶はしないから…優しいなって思うのよね。あぁ、なんかクラスメイトたちがニヤニヤ見ている……。

　…なんで気がつかないかな、このニブチン。

　引きずりながらため息をついた。
　


　

　

　背後：いや…充実の学園生活だなと思って（しみじみ）

　…ちなみに、思った以上にナイっていわれたな！

　　…それ言った奴は、呪おうと思うんだ

　背後：呪うな？！いや、でも遅くなったけど白バニーかわいいかわいい。

　 　まず背後を呪おうか

　背後：なんでさ！？